咲「いい夢みれた?」


両名とも同世代ということでよろしくお願いします。
ああ、咲さんにこんなこと言われたい

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咲「いい夢みれた?」

「はやりはね 見たいものがあるんだ

咲ちゃんが見たいものは、なあに」

「まだわからないけど」

「はやりちゃんが夢を見ることの素晴らしさを、教えてくれた」

「私にとって、はやりちゃんは私が追いかけていた夢そのもの」

「だから、えっと、いつも傍にいてくれて、ありがとう。もうこれ以上なんて何も要らないよ」

精一杯の言葉を紡ぎ終えた咲に、真向かったはやりが、いつも浮かべている柔らかい微笑みを崩さないまま首を少しだけかしげ、前髪が意味ありげに揺れたあとに、口を開いて放った言葉は、咲の求めているものとまるで違うものだった

「夢なんか、見なくていい」

短髪の少女は硬直した

「私は咲ちゃんの夢なんかじゃないって」

厳しい言葉を、菩薩のような微笑みを崩さないで言うはやりから、何の違和感も感じないことそのものに、違和感を覚えるものの
理由がわからない咲ははやりに解答を乞う

「どうして、そんなことをいうの」

けれども、咲にとって見慣れたその瞳は、悲しそうに形を変えただけで、それ以上何も語ろうとはしない

「いかないで、どこにも。はやりちゃん」

どこにも


どこにも


どこって

「目を覚まして」


ここはどこ



目が覚めるとそこは君の部屋

君が立っている台所の窓からは強烈な西日が差し込んできて僕の左半身を貫かんばかりに照らしている

眠い目をこする僕に、君は微笑みかけたことが、振り返らずともわかる

目が見えなくなっても、あるいは耳が聞こえなくなっても、君の表情を見る自信さえあるよ

暗闇の中にいる僕を見つけ出してくれた、君

まだ半覚醒の僕の目が半開きのまま捉えているのは、こたつの上で開かれた姿の、みかんの皮

いつ、中身を食べたのかと記憶を辿る

眠る直前に違いない。では、その前は何をしていただろう。ああ、そうだ。

君と遊んで、遊びつかれて、眠ったんだった。

「よく眠れた?かわいい寝顔だったよ」

そう言う君の名前は瑞原はやり

それだけは記憶喪失になっても忘れないだろう

忘れられないだろう

愛しい君の名前は

君に一瞥もくれずに、まだ寝ぼけたままの頭をゆっくりと覚ますのは君が僕を信じているからで、僕が君を疑わずにいるからだ

僕の目が完全に覚めるのを、料理をしていた手を止めて待っている君

その君のことを心で見ながら、匂いと音で今日の夕飯が何なのかを直感する

君お得意の肉じゃがなんでしょう?
また?ううん、それが嬉しいの。
君は僕が「おいしい」と言ったことを思い出しながら作ってくれているんでしょう。
それが嬉しいの。
恥ずかしいから言わないけれど。
あんなもの、誰が作っても同じ味になるはずなのに、君の味がする。
長い夢から覚めたばかりの僕には懐かしくすら思える、あの味と君との思い出がフラッシュバックして

なんだか無性に胸が締め付けられて、切ない。まるで失恋したみたいに。

あれ?おかしいな

何だか本当に悲しい。

寝ぼけて、気分が落ち着かないだけならいいのだけれど、きっとそうじゃないって考え込んでしまうのが悪い癖。

自分でも認めているくらい内向的な僕は、いつもこうやって君を困らせてきたんだっけ。

理由なく怒り、悲しむ。自分でその訳を説明する強さが無かった。それでも君は僕の頭を何度も撫でて受け止めてくれた。

酷いことばかりして君から遠ざかろうとする僕のすべてを見抜いて、待っていてくれた。

僕は何度も君の元に戻ってきた。

失恋?


「は、や、り」

目を閉じて、僕は愛しい名を呟いた

電話越しに番号を復唱するときのように一文字一文字をかみしめながら、なまら呆け者のように息を吐き出すと

心象風景の中では、真っ暗闇に広がる湖に、三つの石が投げ込まれた

その波紋がキラリと輝きながらどこまでも広がっていく

「は」「や」「り」と音がした。

アパートの一室では、名前の持ち主が、意味を汲みかねて何かと訊いた

訊いてみたいのはこっちのほうだ

「どうして別れるの?」 と、言いかけてやめた。

「咲ちゃん、また寝ぼけている」と、笑って済ませてはくれないかもしれない問いを飲み込んで

いつものエプロンをした君の顔に目をやって、変わった問いを投げてみる

「おはよう、はやりちゃん。いい夢、見れた?」

「眠っていたのは咲ちゃんのほうじゃない」

怪訝そうな顔ひとつせず、あたかも素っ頓狂な質問を予期していたかのようにして答える彼女は

火にかけぱなしの鍋が、蓋から白い湯気を吐き出していることを気にもせず僕の目だけを、深く深く見据えている

愛を打ち明けたときよりも、今までのどんなときよりも深くその目は優しい。どうして今、そんな目をするのだろう。

ムードやロマンスの欠片もない、安アパートの一室で、生活感溢れる夕食時が一番ロマンチックに思えてしまう、自分の壊れた感性をなるべく早く正そうと、二度瞼を開け閉めしてみる。

冴えたはずの頭でもう一度見た、君の目は相も変わらず

宇宙のすべてを映しているかのように澄み切っている。

僕は見つめたまま、君の言葉を待っている。

「そうだね。でも」

「...私もいい夢みたよ」

それだけ言って背を向けた君をみていると

また眠気がやってきて、僕は再び眠ることにした。


その答えが欲しかったんだ


そう思いながら眠っていく

遠くなっていく意識に反比例して、眠っていた無意識が近づいてくる

夢は 起きたら忘れてしまうけど 再び眠るときに思い出すことがある

さっきまで僕が見てたのは、君が去っていく夢


どうして君が去っていく夢を見たのか

それはかつて孤独だった僕にとって、起きて君と一緒に居るときこそが幸せな夢のようで、

夢見心地で毎日を生きていたことに原因がある。

そんな僕が、僕自身にあんな夢を見せたのは、君と居る日常が、もはや夢ではなくて現実だって気づくため。

夢見心地から醒めて、君と居る毎日を、現実のものとして受け入れるため

きっと、そうしないと二人は離れ離れになってしまう

毎日「夢みたいだね」って言ってるようじゃ弱すぎた

これからは、もう甘酸っぱくはないかもしれない ありふれた現実を生きるのだ

果実はもう食べ終えてしまった

でも。

次の、もっと素敵な夢を見ながら

ああ、今から見る夢は、きっとさっきの夢の続き


「ごめんね」

「いいよ」


「私が見たいものは...」


結婚でしょうか。麻雀大会優勝でしょうか。それとも咲さんのことだから詩的な願望でしょうか。

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